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那覇地方裁判所 平成10年(ワ)654号 判決 1999年5月27日

原告 国

代理人 世嘉良清 読山司 ほか一名

被告 三宅徹

主文

一  被告は、原告に対し、金一七九三万二六〇〇円及びこれに対する平成七年四月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

本件は、上原真(以下「上原」という。)が被告と共に窃取した小型乗用自動車を無免許で運転中に起こした事故により、同乗していた新垣ひとみが死亡した事件に関し、同人の遺族に自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)七二条一項に基づいて損害てん補金として金一七九三万二六〇〇円を支払った原告が、被告に対し、同人も、上原と共に、自賠法三条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たるとして、自賠法七六条により、新垣ひとみの遺族が被告に対して有する損害賠償請求権に基づき、右てん補額を限度とする損害賠償を求めたのに対して、被告が、右運行供用者性を争った事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

新垣ひとみは、次の事故により受傷し、死亡した。

(一) 日時 平成五年八月三日午前六時三〇分ころ

(二) 場所 沖縄県糸満市字喜屋武二五九番地喜屋武農業共同加工施設東方約三〇〇メートル付近路上

(三) 加害車両 <1>車両 小型四輪乗用自動車

<2>登録番号 沖縄五八や六八三六

<3>所有者 久場正史(以下「久場」という。)

<4>運転者 上原

(四) 事故の態様及び結果

上原は、被告と共に久場所有の加害車両を窃取し、被告を右車両の助手席に同乗させて、前記場所を走行中、右車両前部を道路右端の電柱に衝突させ、後部座席に同乗していた新垣ひとみに脳挫傷、頭蓋骨骨折及び頭部裂傷の障害を負わせて死亡させた。

2  損害のてん補

上原及び被告は、自賠法所定の責任保険の被保険者及び責任共済の被共済者以外の者であったため、原告は、同法七二条一項に基づき、新垣ひとみの遺族である新垣次男及び新垣一枝の請求により、平成七年三月三〇日、大同火災海上保険株式会社を通じて、新垣次男及び新垣一枝に対し、前記損害てん補金として金一七九三万二六〇〇円を支払った。

二  争点

被告は、自賠法三条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当するか否か。

(原告の主張)

被告は、上原とは中学時代からの友人で、年齢も同じであり、平成五年八月二日、上原と共謀の上、加害車両を窃取し、事故前日から、上原と共に、右車両に乗って、いわゆるドライブを楽しんでいた。そして、本件事故当日の平成五年八月三日も、上原が運転する右車両に同乗し、後部座席に被害者らを乗せ、ドライブを楽しみ、右同日、被告らが右車両で喜屋武部落に向かったのも、被告の友人からガソリン代を借用するためであり、上原が、砂利道を時速八〇キロメートルで走行するという無謀運転をした際にも、被告は、これを認識しながら、右無謀運転を制止することなく漫然とこれを容認し、本件事故を引き起こした。

したがって、被告は、上原と共に、加害車両の運行支配を有していたのであり、自賠法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に該当する。

よって、原告は、被告に対し、自賠法七六条一項に基づき、原告が被害者である新垣ひとみの遺族に対して支払った損害てん補額金一七九三万二六〇〇円及びこれに対する平成七年四月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の反論等)

被告は、上原とは、本件事故当日の一、二週間前に知り合ったばかりで、格別の友人関係はなく、むしろ、上原の方から被告に近づいてきて、被告は上原に強引に引っ張られていたのであり、共謀して何かをやる間柄ではなかった。

平成五年八月二日に那覇市で加害車両を窃取した際の状況も、上原が、被告に対し、いきなり「車を盗もうか」と言ったのに対し、被告が「俺は運転できないよ」と答えたのであるが、被告は、上原の性格とそれまでのやり方から、被告が何を言っても上原は車を盗むつもりだと思い、上原に従ったに過ぎない。したがって、これをもって以心伝心による意志疎通ということはできず、右車両の窃取に関し、被告と上原間に共謀があったとはいえない。

本件事故の直前、上原が砂利道で時速八〇キロメートルの速度で加害車両を走行させていた際、被告は、怖くてずっと座席にしがみついていた。その時の状況から、被告は、上原の無謀運転を制止することができなかったのであり、上原の無謀運転を漫然と容認していたわけではない。

右のとおり、被告は、上原の運転する加害車両に同乗してはいたものの、運転は終始上原が行っており、また、同人の暴走行為を唆したり助長したりする行動もとっておらず、運行支配を及ぼし得る関係になかったのであるから、被告には運行供用者としての責任はない。

第三争点に対する判断

一  本件の争点は、被告が、自賠法三条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたるか否かにあるが、まず、その判断の前提となるべき被告と上原が加害車両を窃取した際の事情及び本件事故発生に至る経緯等の事実関係について検討する。

前記当事者間に争いがない事実と<証拠略>によれば、次の各事実が認められる。

1  被告(昭和五三年一月二二日生)は、平成五年八月一日、遊び仲間であった上原(昭和五三年二月一六日生)と共に、沖縄県糸満市字西崎所在の糸満ショッパーズ向かいのいわゆるゲームセンターで、ゲームをするなどして午後八時位まで遊び、その後、右ゲームセンター付近をぶらぶらしながら過ごしていた。その後、翌八月二日午前一時ころ、上原は、被告に対し、那覇に遊びに行こうと提案したので、被告及び上原は、那覇市に向かった。

被告及び上原は、那覇市内に到着し、那覇高校付近を歩いていたところ、上原が右高校前の民家の車庫に駐車中の加害車両を発見し、被告に対し、「その車を盗もう。」と申し向けた。被告は、これに対し、黙ってうなずいた。

上原が右車両を物色している間、被告は、道路付近で見張りをしていた。上原は、被告を見張りに立たせた上、車両を盗むつもりで二、三日前から隠し持っていたハサミを取り出し、加害車両のドアの鍵穴にその先を差し込んでドアの鍵をこじ開けた。

その後、上原が運転席に、被告が助手席にそれぞれ乗り込み、上原が右ハサミをエンジン始動のための鍵穴に差し込んで思い切り回すと、右車両のエンジンがかかったので、上原は、そのまま右車両を走行させ、上原及び被告は、右車両を窃取した。

その後、上原は、被告を助手席に乗せて、窃取した右車両を乗り回して遊んだ後、平成五年八月二日同日午前七時ころ、右車両を運転して糸満市内に戻り、右車両を沖縄県糸満市所在の県営西崎第二団地付近に隠した。そして、上原及び被告は、夜に再び右車両を運転して遊ぶこととし、西崎在のゲームセンターで待ち合わせをすることを約し、それぞれ帰宅した。

2  平成五年八月三日、上原は、被告と右のような約束をしていたことから、右ゲームセンターに赴いたが、被告が同所にいなかったため、被告を探しに行き、右西崎第二団地付近で友人らと遊んでいた被告を見つけ、同日午前二時ころから、被告を加害車両の助手席に乗せて、いわゆるドライブをすることになった。

被告及び上原は、糸満市内をドライブするうちに、平成五年八月三日午前三時ころ、糸満ロータリーの南側にある通称サバニ公園付近で、遊び仲間の新垣ひとみ、大城寿美恵及び大城美奈(以下「新垣ひとみら」という。)を見かけて声をかけたところ、同人らも同乗したい旨を述べたので、同人らを加害車両に乗せ、ドライブに出かけた。その際、上原は加害車両を運転し、被告は助手席、新垣ひとみは運転者の後ろの後部座席、寿美恵は後部座席中央、美奈は助手席後ろの後部座席にそれぞれ乗車した。

3  その後、加害車両のガソリンが減ってきたため、沖縄県糸満市喜屋武に住む新垣ひとみらの友人にガソリン代を借りようということになり、上原、被告及び新垣ひとみらは、平成五年八月三日午前六時ころ、沖縄県糸満市喜屋武に赴いたが、右友人が不在であったため、引き返すことになった。

上原は、喜屋武農業協同組合前の道路から東方向に加害車両を進行させたものの、道がわからなくなり、そこからUターンをして沖縄県糸満市喜屋武に戻ることにしたが、その途中、面白がって、砂利道を時速八〇キロメートル程の速度で走行した。被告及び新垣ひとみらは、上原が調子に乗り、自らも、これを面白がって興じていたため、上原の無謀な運転を制止することはなかった。

4  このような中、加害車両が緩やかな右カーブを通過する際、右方向に横ぶれの状態となり、上原は、加害車両を制御することができなくなり、道路右側のコンクリート製電柱に加害車両の右後方ドアを衝突させた。

右事故により、新垣ひとみは、脳挫傷、頭蓋骨骨折、頭部裂傷の各障害を負い、救急車で、沖縄県糸満市内の沖縄県立南部病院に運ばれ、治療を受けたが、平成五年八月三日午前九時四五分、右病院において死亡した。

二  そこで、右認定の事実関係に基づいて、被告が、自賠法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたるか否かについて判断する。

前記認定の事実によれば、被告が加害車両を利用したのは二回と少なく、また、被告は、終始、上原の運転する右車両の助手席に乗っていたのみで、これを運転していなかったことが窺われ、右車両を窃取した際も、いわゆる見張り行為に当たっていたことからすれば、被告の加害車両の使用に関する関与の度合いは上原に比して低いとも見える。

しかし、前記認定のとおり、被告は、上原が加害車両を盗もうと提案した際、何らこれを拒否することをせず、上原が右車両を物色する間、自ら、見張りをし、加害車両に乗り込んで、以後、上原と共にいわゆるドライブに興じていたのであって、右事実によれば、被告は、上原と共謀の上、加害車両を窃取したものというべきである。

そして、前記認定のとおり、被告及び上原は、加害車両を窃取した後、糸満市に戻ると、二人で右車両を西崎第二団地付近に隠し、また、上原が加害車両を運転した機会は、これを窃取した際と本件事故の際の合計二回であったが、いずれの機会にも、被告は加害車両の助手席に乗って、上原と行動を共にし、ドライブに興じているのであって、上原は、被告と一緒に乗る以外には、加害車両を使用していない。

これらの事情からすれば、被告は、上原とともに、共同して加害車両を占有して支配し、その運行の利益を享受していたと評することができる。

したがって、被告は、自賠法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」に当たるというべきである。

三  前記認定の事実関係の下、本件において、原告が、自賠法七六条一項に基づき、被告に対し、損害賠償として請求し得る額は、別紙「損害及び相続」のとおりである(各損害額認定の基礎となる事実も、別紙「損害及び相続」中の括弧書き内に掲記された各証拠により、それぞれ肯認される。)。

四  したがって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原敏雄)

別紙<略>

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